子犬は、産まれた時はお母さん犬から受け継いだ免疫で、感染症から守られています。しかし生後2か月になるころには、お母さんの免疫が切れてきます。子犬を感染症から守るためにもワクチンを受けることが大切です。
どんなワクチンを受けるのか、いつ受ければいいのかなど、初めて子犬を飼う飼い主さんのために、わかりやすくまとめました。
ワクチンを受けるメリットとデメリット
ワクチンを受ける最大のメリットは、子犬が恐ろしい感染症にかかるのを未然に防ぐこと。一方、デメリットは副作用があることです。メリットとデメリットについてよく知っておくことが大切です。
ワクチンを受けるメリットとは?
子犬は産まれた時、お母さん犬からの免疫「移行抗体」によって感染症から守られています。移行抗体は、生後42日~150日くらいで切れてきます。そうなると、さまざまな感染症に感染する危険性が高くなります。感染症によっては、命に関わるような病気もあります。
そのため移行抗体が切れる時期をみはからってワクチンを打つことが、感染症から子犬の命を守ることになります。ワクチンを打っていれば、万が一感染しても重症化を防ぐことができるのです。
ワクチンを受けるデメリットは?
ワクチンを受けるデメリットは、子犬によっては副作用が起こる場合がある、ということです。もともと体調が思わしくなかった場合や、アレルギー体質だった場合などに生じる可能性があります。
副作用の症状としては、嘔吐、じんましん、顔の腫れ、発熱、注射部位の痛みなどがあげられます。命に関わることもあるアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。
ワクチンで予防できる感染症はこんなにある!
ワクチンを受けると、どのような病気から子犬を守れるのでしょうか。ワクチンで予防できる病気は、以下のとおりです。
- 狂犬病
狂犬病は犬だけではなく人間も感染するウイルスで、感染し万が一発症すると、致死率はほぼ100%という恐ろしい病気です。国でワクチン接種が義務づけられています。日本では1957年以降発症していませんが、今後また日本にウイルスが入る可能性もあります。生後91日以上になったら必ずワクチンを接種します。
- 犬パルボウイルス感染症
激しい嘔吐や下痢が起こり、死亡率の高い感染症です。
- 犬ジステンパー
子犬がかかりやすく、高熱や目やに、嘔吐、けいれんなどを起こします。死亡率の高い感染症です。
- 犬コロナウイルス
嘔吐と下痢が主な症状で感染力が強い病気です。子犬は重症化しやすくなります。
- 犬パラインフルエンザウイルス感染症
咳、発熱や嘔吐を起こします。感染力の強い感染症です。ケンネルコフ(伝染性気管支炎)の原因になる感染症です。
- 犬アデノウイルス2型感染症
呼吸器に症状が出ます。肺炎になるおそれもあります。ケンネルコフの原因となります。
- 犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型)
イヌ科の動物だけに感染します。症状がなかったり、発熱や嘔吐、下痢を起こしたりとさまざまです。突然死亡することもあります。
- 犬レプトスピラ症
人獣共通感染症といって、人間も感染する病気です。レプトスピラという細菌に感染することで嘔吐や肝臓疾患、腎臓疾患などを生じます。感染動物の尿から感染します。
ワクチンの種類も知っておきましょう
狂犬病をのぞいた感染症のワクチンは、混合ワクチンとなっています。混合ワクチンとはどのようなものか、どういう組み合わせなのかなど、ワクチンについても知っておきましょう。
コアワクチン
コアワクチンとは、すべての犬に接種が勧められるもので、犬ジステンパー、犬パルボウイルス、アデノウイルス1、2型のワクチンです。どれも感染すると重症化、または死亡する確率の高い感染症です。アデノウイルス2型のワクチンは1型の伝染性肝炎も予防できます。
ノンコアワクチン
子犬の住んでいる場所、生活環境によって、感染しやすい場合に接種します。ノンコアワクチンは犬パラインフルエンザ、犬レプトスピラです。そのほかボルデテラという感染症のワクチンがあります。
たとえば田んぼや川が近くにある、アウトドアに連れていく予定がある、という子犬には犬レプトスピラのワクチンをした方が安全ですし、ペットホテルによく預ける場合は犬パラインフルエンザ、ボルデテラを接種した方が安心です。
これらをどのように接種するかは、獣医さんとよく相談して決めましょう。
狂犬病ワクチン
狂犬病については、「狂犬病予防法」により毎年の予防注射と、市区町村への犬の登録、犬に鑑札と注射済票をつけることが義務づけられています。子犬は生後91日からワクチンを接種できます。
ワクチンを受けるときの注意は?
ワクチンを受けるとき、どのようなことに注意したらいいのでしょうか。ワクチンを受ける前、受けたあとのこと、知っておきましょう。
ワクチンはいつ、何回受ける?
1歳になるまでに3回ワクチンを接種するのが一般的です。具体的なスケジュールは、かかりつけの獣医さんとしっかりお話しします。獣医さんによっては2回接種にする場合もあります。分けて接種をする理由は、お母さん犬からもらった移行抗体が早くなくなる子もいれば、しばらく残る子もいるためです。抗体が残っていると、接種しても移行抗体によってワクチンの成分の効果が失われてしまいます。そうするとワクチンの効果は期待できません。そのため念のため何回かに分ける必要があるのです。次の年からは年に1回の接種で大丈夫です。子犬のワクチン接種の一般的なスケジュールをご紹介します。
- 1回目:お母さん犬からもらった免疫、移行抗体が切れ始める生後42日以降から60日あたりに接種します。
- 2回目:生後約90日(3か月)くらいに2回目を接種します。
- 3回目:生後およそ120日(生後約4か月)に3回目の接種をします。
ワクチンを打つ前に気をつけることは?
子犬が家にきたら、まず動物病院に連れていきます。そこで、子犬の健康状態を診てもらいます。寄生虫に感染しているとワクチンを受けられないので、感染していた場合は駆虫してもらいます。獣医さんにワクチンの説明を受け、スケジュールを立ててもらいましょう。
ワクチンのあとに気をつけることは?
しっかり獣医さんからの注意を聞きましょう。注射直後は副作用が出る可能性があります。何かあったときに対応できるように、すぐ帰宅するよりも、動物病院でしばらく様子をみるか近くにいるようにします。また、帰宅後体調に変化があったときのためにも、ワクチンはなるべく午前中に打つことをおすすめします。ワクチンを打った当日は、静かに過ごすようにします。1週間程度は、子犬の体調に変化がないか様子をみておきます。
散歩はいつからできる?
子犬との散歩、楽しみですよね。ワクチン接種1回目、2回目ではまだしっかり免疫がついていない可能性があります。3回目の接種後、だいたい1~2週間後くらいから散歩ができるようになります。接種してすぐに免疫がつくわけではないので、気をつけてください。それまでは、子犬を抱っこして庭を歩いたり窓から外を見せたりしておくといいですよ。
お風呂はいつから?
ワクチンを打った当日は、シャワーやお風呂は避けましょう。だいたい接種後2~3日でシャワーが可能です。具体的なことは獣医さんの指示に従いましょう。
子犬のワクチン接種は獣医とよく相談することが大切
子犬はお母さん犬からの移行抗体が切れるころから、感染症にかかりやすくなります。ワクチンを打つことで、子犬が感染症にかかるのを未然に防ぐことができます。一方、ワクチンにはさまざまな副作用を起こす可能祭がある、というデメリットもあります。ワクチンのスケジュールや、副作用のことなどをかかりつけの獣医さんにしっかり相談しましょう。
文:伊藤 悦子
プロフィール:麻布大学獣医学部環境畜産学科(現:動物応用科学科)卒。子供の時からいつもそばに動物がいる暮らしをしています。インコ、文鳥をはじめ犬や猫、モルモットなどと生活をしてきました。大学で学んだことだけではなく、子犬や子猫の世話から老犬老猫の介護、多頭飼いと今までのさまざまな経験から、皆様のお役に立ちたいと思っております。現在は茶トラのめす猫2匹と同居しています。
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